音楽ダイアリー

お勧めの音楽アルバムを中心に、コンサート情報や音楽関連書籍を紹介します。

≪カラーズ Colors≫ ベック Beck

 

COLORS [CD]

COLORS [CD]

  • アーティスト:BECK
  • 発売日: 2017/10/13
  • メディア: CD
 

 

おすすめ度:★★★  (3つ星が最高点)

   前作≪Morning Phase≫では、脊椎損傷による長い闘病生活の影響によるものか、長い夜がようやく明け、闇の中に淡い光が射しこむような静かな曲が中心だった。本作では心身ともに完全復帰したようで、1曲目から至福感全開の、飛ばしに飛ばしまくったダンス・ミュージックが中心となっている。

 

  タイトルの≪Colors≫のとおり、極彩色に彩られたポップ・ミュージックの傑作。

 


Beck - Wow (Official Music Video)

≪レピュテーション Reputation≫ テイラー・スウィフト Taylor Swift

 

REPUTATION [CD]

REPUTATION [CD]

  • アーティスト:TAYLOR SWIFT
  • 発売日: 2017/11/10
  • メディア: CD
 

 

  おすすめ度: ★★ (3つ星が最高点)

  今もっとも旬なシンガー テイラー・スウィフト

  前作≪1989≫では、それまでのカントリー・ミュージックから大きく路線変更し、マドンナやマイケル・ジャクソンが大活躍した1980年代ポップを再現した至福に満ちたアルバムだった。今作も≪1989≫路線を引き継ぐかと予想していたけど、今作ではまたもや大きく舵を切って、ヒップ・ポップに挑戦している。現在のアメリカの音楽シーンにおいてヒップ・ポップが主流なので、王道路線に乗ったといえる。

 

  アメリカ本国では、テイラーの一挙一動が世間の注目を集め、誰と付き合っているとか、誰々と別れたなどスキャンダラスな話題に事欠かない。

テイラーは実体験を基にした歌詞が多いというもっぱらの噂で、この曲は誰それとの恋愛を基づいて書かれたものだなど、深読みされる狂騒状態が続いている。

 

  ポップ・アイコンであることの重圧と悲痛を感じさせるシリアスな歌詞にもかかわらず、閉鎖的でヘビーなサウンドではなく、同時代をしっかり捉えた大衆に向けられたポップ・ミュージックとして昇華していることに凄みを感じる。

 

  ポップ・アイコンであることへの覚悟を真正面から受け止めた力作。

 

≪オール・ザ・ライト・アバブ・イット・トゥー All the Light Above It Too≫ジャック・ジョンソン Jack Johnson

 

ALL THE LIGHT ABOVE IT TOO [CD]

ALL THE LIGHT ABOVE IT TOO [CD]

  • アーティスト:JACK JOHNSON
  • 発売日: 2017/09/08
  • メディア: CD
 

 

  おすすめ度:★ (3つ星が最高点)

  サーフ・ミュージックの火付け役ハワイ出身のジャック・ジョンソンの7枚目のアルバム。

  いつものジャックらしく、素朴で雰囲気のいい曲が並んでいる。

  今回は、シガー・ボックス・ウクレレというハワイの伝統的な楽器を主に使用しており、ちょっと古ぼけた牧歌的な音色は、ジャックの楽曲にぴったり。

 

  2008年、横浜赤レンガ特設ステージで彼のライブを見たことがある。夕暮れ時で、澄んだ青空が徐々に暮れていく美しい情景は、彼の音楽と呼応しているようだった。心地よい海風が頬に優しくあたり、私はジャックのライブを心から楽しんだ。

 

  ジャケット写真は、ジャックがいろいろな物に囲まれているカラフルで楽しげなもの。これらは海からの漂流物を集めたプラスチックのごみらしい。一見、幸福感あふれる写真にも社会への風刺が効いている。

≪Birthday album≫ 原田知世

 

バースデイ・アルバム+

バースデイ・アルバム+

  • アーティスト:原田知世
  • 発売日: 2017/08/23
  • メディア: CD
 

 

 おすすめ度:★  (3つ星が最高点)

原田知世のレコード・デビュー35年を記念してファースト・アルバムがリイシュー。

ヒット曲「時をかける少女」が収録。

 

 原田知世より、歌がうまいアイドル歌手はたくさんいたかもしれない。美しい声の歌い手もいたかもしれない。圧倒的な歌唱力の歌い手だっていたかもしれない。

でも、独特の佇まいを身にまとい、凛とした透明感に満ちた声で、歌詞の情景を描きえる歌い手はなかなかいない。限られて者だけが生まれながらに持ち得た才能といえる。

 

 たとえば、「守ってあげたい」のカバー。楽曲としての完成度という観点からいえば、松任谷由美の歌うオリジナルが断然すぐれているかもしれない。でも、原田知世の歌う「守ってあげたい」の方に軍配を上げたい。少女特有の揺れ動く情感豊かな歌声が、この曲の魅力を最大に引き出しているから。

 

 現在でも、彼女はコンスタントにアルバムを出していており、デビュー時よりずっと歌はうまくなっている。でも、大人になることへの期待と恐れ、瞬時にして喜怒哀楽が揺れ動く10代特有の感情の起伏、こうしたセンスティブな情感はこの時期の彼女しかできなかった。

 だから、彼女にとっても、本作はOne & Onlyの作品といえる。

 

 若き日の愛らしい原田知世のジャケット写真を見るだけでも、本作は絶対のお買い得。

≪KPP 2014 JAPAN ARENA TOUR≫ きゃりーぱみゅぱみゅ

 

 

  おすすめ度: ★★★ (3つ星が最高点)

  2014年に行われた国立代々木第一体育館とロンドンでの公演を収めた2枚組DVD。

 

  原宿かわいいカルチャーの創始者である増田セバスチャンの手がけたファンタジックな舞台セットは、きゃりーの楽曲の世界観を見事に体現している。

総勢40名以上ものキャラクターたちがきゃりーと共に夢の世界でいきいきと動いている。きゃりーのコンサートは、アミューズメント・パークであり、メガ・トイ・ストアであり、サーカスでもあることを実感する。

 

  彼女のコンサートの最大の特徴は、観客参加型であること。公演の途中で、きゃりーは何度も観客に呼びかけ、曲にあわせて振り付けをしたり、隣の客と肩を組んだりすることを求める。

つまり、きゃりーのコンサートを見ることは、彼女が統治する不思議の国の市民として参加することであり、彼女の掛け声のもと、市民全員が仲よく幸せにならなければならないという大前提のうえで成立している。

 

  驚かされるのは客層の幅広さだ。小学校に上がる前の園児から、派手に着飾ったテーンエイジャー、そして40、50代の大人に至るまで広範囲に及んでいる。遊園地に出かけるように家族連れで来ている客もたくさん見受けられる。こんなにバラエティに富んだ観客を集められるのは、きゃりーの構築したファンタジーの世界が特定の年齢層だけでなく、あらゆる年代に受け入れられていることの証左である。

しかも、観客は日本人だけでなく、外国人にまで及び、世界に通じるジャパニーズ・カルチャーの一角を担っているといってよい。きゃりーによる世界征服を狙った活動の一環ともいえるくらいだ。

 

  ラストのMCで「一時は汚い芸能界から引退しようと思っていた」と涙ながらに告白する。引退を思いとどまったのは、彼女のファンのためにファンタジーを送り続けたいという強い意志からだった。過酷な現実に直面したとき、その現実に対抗しうる、あるいは救済しうる手段は、現実を凌駕できるほど想像力豊かな鉄壁なファンタジーでしかない。そのことをきゃりーは身をもって確信しているはずだ。

『職業としての地下アイドル』 姫野たま

 

職業としての地下アイドル (朝日新書)

職業としての地下アイドル (朝日新書)

  • 作者:姫乃たま
  • 発売日: 2017/09/13
  • メディア: 新書
 

 

 地下アイドル歴10年のキャリアをもち、2019年に卒業した姫野たまによる地下アイドル論。地下アイドルとは、テレビ出演ではなく、小規模なライブ・ハウスでの公演を主な活躍の場としているアイドルをいう。

 

 著者は、地下アイドルになった女の子たちのきっかけやモーチベーションといった、誰もが知りたい質問を独自のアンケート調査によって明らかにしている。地下アイドル本人だけでなく、地下アイドルを応援するファンの実態や地下アイドルとファンの関係性にまで考察が及んでいる。地下アイドルは、ファンの存在があってこそ初めて存在しうる。ファンのいないアイドルなどこの世に存在しえない。したがって、地下アイドルを語るためには、ファンについても言及しないと片手落ちとなってしまう。

 

 本書は、一見、社会的にマイナーな地下アイドルをテーマとしながら、現代若者論としても、現代文化論としても通用している。なぜなら、地下アイドルは一部の特殊な女の子ではなく、どこにでもいるごく普通の女の子たちであり、地下アイドルを応援する者たちもごく普通の一般人であるからだ。

 

 「エピローグのようなもの」では、著者の地下アイドルとしての個人史が赤裸々に書かれている。友人からの誘いでひょんなことから地下アイドルになったものの、ファンやスタッフの期待に応えようとするあまり、うつ病を発症してしまう。いったん、引退するものの、周囲に流されず自分らしく生きることを決意し、また地下アイドルの世界に舞い戻る。今度こそ自分を見失うことなく、居心地によい確固たる居場所を見つける。地下アイドルになることは、自分探しの物語でもあったことがわかる。


姫乃たま/脳みそをマッサージ

『小沢健二の帰還』 宇野維正

 

小沢健二の帰還

小沢健二の帰還

  • 作者:宇野 維正
  • 発売日: 2017/11/29
  • メディア: 単行本
 

 

 おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 本書は、ミュージシャン小沢健二の空白の19年の謎を追求したものだ。

 

 小沢健二は、1990年頃に一世を風靡した渋谷系(渋谷のライブハウスを中心に活躍したミュージシャンを指す)の代表的なバンドであるフリッパーズ・ギターに在籍していた。フリッパーズ・ギター解散後は、ソロ・デビューし、1994年、「今夜はブギーバック」や「ラブリー」などが収められた名アルバム「LIFE」を大ヒットさせ、一躍ポップ・スターとして名を馳せた。

 

 私はフリッパーズ・ギター時代から彼の大ファンであり、ソロ3枚目のアルバム「球体の奏でる音楽」以降、1998年ころから徐々に表舞台からフェードアウトしてしまう様子をさびしく思っていた。あのまま失速せずにずっと走り続けていれば、きっと国民的なシンガーになっていたに違いないと。

 

 本書は、芸能人の私生活を暴露するのではなく、公表された楽曲や出版物、ブログなどに基づき、丁寧に事実関係を調べあげ、謎の空白期間を推察している。公表された作品だけを頼りに謎解きをするのは、ミュージシャンとファンという関係性において、とっても誠実な姿勢だと思う。

 

 なぜ小沢は一時的に戦線から離脱したのか?なぜ2016年になって、突如、19年ぶりのシングルを発売し、また表舞台に舞い戻ってきたのか?

 

 本書でもその理由は、明快な解答としては提示されていない。ただ、小沢健二が虚構に彩られたポップ・スターであり続けることに懐疑的になったことは間違いないようだ。一線から退いたのは、表現者として真摯でありたいという、誠実な行為であったと私は理解した。

 

 それに、空白期であっても小沢健二表現者としての活動を全く辞めてしまったわけではなかった。かつてのように華々しくメディアに登場していなかっただけであって、地道に音楽活動と創作活動を行っていた。アメリカ人の妻とともに、世界各国を巡り見識を広げ、人間として大きな成長を遂げていたことも本書を読んでよくわかった。

 

 本書は小沢健二が一過的なポップ・スターから真のアーティストとして復活を遂げた貴重な記録といえる。

 


小沢健二/ラブリー 【PV】