≪deep bule≫ sora tob sakana
おすすめ度: ★★★ (3つ星が最高点)
2014年にデビュ-し、2020年9月をもって6年間のアイドル活動に終止符を打つ、アイドル・グループsora tob sakana(以下、愛称のオサカナと呼ぶ)のラストアルバム。
全11曲で、うち2曲が新曲。残り9曲は現在の3人体制になってからの新録音となっています。(2019年5月に風間玲マライカが卒業したため)
新曲の『信号』と『unite』が最初と最後を飾る。2曲目『クラウチングスタート』は、音楽プロデューサーである照井順政が初めて彼女たちの曲を手掛けた記念すべき1曲。その後のオサカナの方向性を示す大切な一曲。
1stアルバムから4曲が選曲されており、聞き比べてみるとこの彼女たちの成長ぶりがうかがえます。
オサカナの最大の魅力は、アイドル離れしたクオリティの高い楽曲にあります。これは照井順政の才能の賜物が大きいが、もちろんそれだけじゃない。彼女たちも楽曲のみ評価されていることに、一時は抵抗感があったと語っている。目まぐるしいほどの変拍子の連続、高速度のメロディーなど、難易度の高い楽曲をしっかり自分たちの歌として消化している実力は大いに評価したい。他のアイドルたちから「よくあんな難しい曲、歌えるね」と感心されたほど。
アイドルのアルバムなのにジャケットに彼女たちの姿はなく、紺青の海の写真が使用されているあたりに、アイドルという枠だけでこのアルバムを聴いてほしくないというプロデューサーの意気込みを感じさせます。
このアルバムを聴き終えると、彼女たちが駆け抜けた6年間の軌跡をそのまま自分も追体験しているかのような甘酸っぱい気持ちでいっぱいになる。このアルバムを聴きながら、彼女たちとともに、もう一度、青春時代を送ることができました。
「アイドルなんて」と冷笑している人にこそ聴いてもらいたい一枚です。
≪フォークロア folklore≫ テイラー・スウィフト Taylor Swift
おすすめ度: ★★★ (3つ星が最高点)
カントリー・ミュージック、1980年代パステルカラー・ポップ、ヒップポップと、テイラー・スウィフトはアルバムごとに音楽スタイルを大きく変えていますが、本作ではアルバム・タイトル通り、伝承歌のような古風な雰囲気が漂っています。彼女の作品の中では、音数が少なく地味な仕上がりにもかかわらず、最良のポップ・ミュージックになっています。これまでの楽曲とは違い、装飾的なサウンドが控えめな分、メロディメイカーとしての彼女の実力ぶりが際立ち、素顔のテイラーに会える作品となっています。
彼女が不幸だったのは、16歳でデビューし、10代でカントリー・ミュージックを歌う優等生的な歌手として登場したのに、いくつかの出来事をきっかけに恋多き魔性の女とのレッテルを貼られてしまったことです。その結果、ラブ・ソングが発表されるたびに、楽曲の評価よりも「この曲はだれとの恋を歌ったものなの?」といったゴシップネタが全米中に拡散され、彼女にとってはありがたくない状況となっています。本作でもラブ・ソングが中心となっていますが、個人的な経験を誰もが共感できる私たちの物語として昇華しているあたりに、彼女のたぐいまれな才能を感じます。
私は2018年の東京ドーム公演を観ています。メインステージからサブステージに移る際、彼女はアリーナ席の観客たちとハイタッチしながら、数百メートルの距離を駆け抜けました。そのサービス精神は、今世界でもっとも売れているセレブといった驕りはなく、観客を楽しませたいというエンターテイナーとしてのプロ根性を感じました。
≪ファルセット≫ RYUTist
おすすめ度: ★★★(3つ星が最高点)
新潟を拠点として活動する女性4人組のアイドル・グループRYUTistの4thアルバム。
新潟のご当地アイドルとしては、10年以上のキャリアを持つNegiccoが有名ですが、RYUTistも2011年に結成され息の長い活動を誇っている。
蓮沼執太フィル、Kan Sano、柴田聡子、パソコン音楽クラブらのインディーポップシーンを代表するミュージシャンが楽曲を手掛け、アイドルの教科書といいたくなる作品に仕上がっている。
「アイドルの」と形容するのが邪魔になるくらいポップ・ミュージックとして優れた楽曲ばかりで、2020年を代表する作品になる予感すら感じる。でも、この作品は紛れもなく正統アイドル・ソングだ。思春期の女の子たちの揺れ動く心象風景やわくわくした息遣いはアイドル・ソングでなければ、絶対に成立しえなかったから。
エバーグリーンの青春小説のように一瞬のきらめきをスナップショットしたMV『ALIVE』は必見。
≪WORLD DOMINATION TOUR 進化≫ BAND-MAID
おすすめ度: ★★★ (3つ星が最高点)
2020年2月14日にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催されたBAND-MAID初のライブ映像。2年間にわたるWORLD DOMINATION TOURの最終日を収めたもの。WORLD DOMINATION TOURは、副題を「宣告」「侵略」「激動」と変えながら国内だけでなく海外でも公演し、文字通り世界征服を展開してきた。そして、ツアーの有終の美を飾る副題は「進化」。
BAND-MAIDは2013年に結成された5人組のガールズ・バンド。バンド名とおり可愛らしいメイド姿でハードロックを演奏する。女性だけのロックバンドは世界的にみても珍しい。そのうえ、楽器の演奏力は世界トップクラス。小鳩ミクはバンドを結成してから、ギターを習い始めたというから、その急成長ぶりに目を見張る。
デビューまもないミュージシャンが、You Tubeやスクリーミングであっという間に人気者になってしまう今、彼女たちのように国内外での地道なライブ活動を積み重ね、実力と人気を培ってきた意義は大きい。
特典映像からのメンバーのコメントによると、この数年のライブにおいてさまざまな試行錯誤を繰り返しながら、観客と共に楽曲を育ててきたことがうかがえる。だからこそ、観客たちが合唱できる求心力のあるアンセムになっているのだろう。
このコンサートの最後に、2021年2月に日本武道館公演が行われることが発表された。これからも彼女たちの進化を見逃せない。
BAND-MAID / DOMINATION (Feb. 14th, 2020)
≪ライブ・アット・ワイト島フェスティバル≫ ザ・フー The Who
おすすめ度:★★★ (3つ星が最高点)
1970年及び2004年にワイト島で行われたザ・フーのライブ映像2枚組。
1970年のライブは、映像も音響もあまりよくない。そのマイナス要素を差し引いても、最高のライブを目撃できる必聴ライブ。
ロジャーもピートもジョンもみんないかしている。
でも何といってもドラマーのキース・ムーンの天衣無縫な奇才ぶりに目が釘付け。一見、子供が戯れているとしか見えないむちゃくちゃなドラミングなのに、ど迫力のある音をたたき出している。
2004年のライブは、映像も音響も満足できる仕上がり。キースとジョンは鬼籍に入り、オリジナル・メンバーは、ロジャーとピートの2人だけとさびしいけれど、セットリストはこれ以上のものは考えられないくらい最強の曲ばかり。60歳をすぎたじじいになっても、2人の演奏する様は、ロックスターの理想とする姿そのものである。
いずれの映像も、フーがロックにおけるカッコよさを120%体現し、ロック史上最高のライブ・バンドであったことを実証してくれるものとなっている。
1960~1980年代に発表された過去の曲なのに、2000年代においても今現在の楽曲として機能している。凄いことだ。
ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズと並んで1960年代3大バントでありながら、なぜかこの日本では、人気も評価も芳しくない。フーを知らない人にこそ、ぜひこの作品を見て、彼らの凄みを実感してほしい。
≪カラーズ Colors≫ ベック Beck
おすすめ度:★★★ (3つ星が最高点)
前作≪Morning Phase≫では、脊椎損傷による長い闘病生活の影響によるものか、長い夜がようやく明け、闇の中に淡い光が射しこむような静かな曲が中心だった。本作では心身ともに完全復帰したようで、1曲目から至福感全開の、飛ばしに飛ばしまくったダンス・ミュージックが中心となっている。
タイトルの≪Colors≫のとおり、極彩色に彩られたポップ・ミュージックの傑作。
≪レピュテーション Reputation≫ テイラー・スウィフト Taylor Swift
おすすめ度: ★★ (3つ星が最高点)
今もっとも旬なシンガー テイラー・スウィフト。
前作≪1989≫では、それまでのカントリー・ミュージックから大きく路線変更し、マドンナやマイケル・ジャクソンが大活躍した1980年代ポップを再現した至福に満ちたアルバムだった。今作も≪1989≫路線を引き継ぐかと予想していたけど、今作ではまたもや大きく舵を切って、ヒップ・ポップに挑戦している。現在のアメリカの音楽シーンにおいてヒップ・ポップが主流なので、王道路線に乗ったといえる。
アメリカ本国では、テイラーの一挙一動が世間の注目を集め、誰と付き合っているとか、誰々と別れたなどスキャンダラスな話題に事欠かない。
テイラーは実体験を基にした歌詞が多いというもっぱらの噂で、この曲は誰それとの恋愛を基づいて書かれたものだなど、深読みされる狂騒状態が続いている。
ポップ・アイコンであることの重圧と悲痛を感じさせるシリアスな歌詞にもかかわらず、閉鎖的でヘビーなサウンドではなく、同時代をしっかり捉えた大衆に向けられたポップ・ミュージックとして昇華していることに凄みを感じる。
ポップ・アイコンであることへの覚悟を真正面から受け止めた力作。